楽しそうな人達を少し離れた所で見ているのが好きだった。
皆の中心にいる人はそれはもう眩しくて、でも嫌味があるわけでは全然ない。
物語の主役になれる人がいれば、そういうのがまるで向いてない人もいる。全員同じだったら、逆に不気味だ。
ワッと歓声があがって、場の興奮は最高潮!といったところか。
キリが良いとも言える。
今日は珍しく時間が空いたので、この後は散歩でもしよう。
誰か誘おうか。しかし目の前の賑やかな子ども達はマジシャンに夢中である。
地面に置かれた帽子におひねりを突っ込んで、足早にその場を離れた。

いいものを見せてもらったので気分が良い。素敵な場所を見つけられる予感がして、更に胸が踊った。
口笛を吹いたり鼻唄を歌ってみたり。隙をみて楽器でも作ったら気分転換になりそうだなと考えてしまうあたり、私もそうとう娯楽に飢えているらしい。

「ショーはもう終わったの?」

足を止めて振り向くと、さっきまで子ども達のスターだった手品師――ゲンが、帽子を抱えて立っている。

「うん。それと忘れ物を届けに」
「えっもしかして足りなかった!?」
「いやいや俺もそこまでがめつくないよ〜」

ドラゴをせびりに来た訳ではないらしい。
半分冗談だけれど、千空と一緒になって必死に集めているようだから。
まあ、そういうのはたくさん持ってる人に払わせるのが一番手っ取り早いだろう。

「じゃあ忘れ物って?」
「……俺?」
「俺」

俺とは。
耳を疑う私を更に追い詰めるように、ゲンはわざとらしく目をキラキラさせて見つめてくる。

「うん。デートしようよ」
「デート」

藪から棒というかなんというか。
石化から復活して数ヶ月、こういう機会は全くなかったので、ゲンの言葉を復唱するだけの人になってしまう。

「ちょっとお喋りに付き合ってくれると嬉しいかなーなんて、散歩がてらで良いからさぁ」
「ああ!そういう事なら。良いよ、別に」

外野から見ていてもこうして対面していても、ゲンは人の懐に入り込むのが本当に上手いと思い知らされる。
今だって自分から要求しておいて、その実、舞台の隅にいる私のような人間にも目を配っているという訳だ。

「あっ、ちょっと安心しちゃった?でも帰る頃には名前ちゃん、俺のことガッツリ意識するようになっちゃってるから」
「ガッツリ……それはすごいね」
「そこはメンタリストだからさ〜期待しててよ」
「へーえ、メンタリストってそういうこともできちゃうの」

空気が重くなりすぎないようにするのも上手い。
ゲンと話していると、いつの間にか乗り気になってしまうのだ。さすがである。

「じゃあお言葉に甘えて。よろしくお願いします」

映画館も水族館もない世界だけれど、この人とならきっとどこに行っても楽しいんだろうなと思った。



2020.5.6


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